善き人のためのソナタ
ベルリンの壁の崩壊数年前、密告社会だった旧東ドイツを舞台に、危険人物の監視を行っていた国家保安省の局員を描いた人間ドラマである。
局員(大佐)は、劇作家とその恋人の反政府活動の証拠をつかむため盗聴活動を命令される。
しかし、(盗聴活動で)劇作家の生き方に触れるにつれて、自らの人間性に目覚め、虚偽の報告書を上司に提出するようになる。
クライマックスは、恋人に裏切られ、窮地に陥った劇作家をこの大佐が密かに助けるシーンだ。
そしてこのことは上司に知れることになり、この局員はは組織人としての人生を終えることになってしまう。
社会主義体制の暗部とそんな社会の中でも生き続ける良心(善き人)を描いた映画であり、当時の東ドイツの監視社会の真実を初めて公にしたことで評価が高い。(06年アカデミー外国映画賞受賞)
レンタル店でこのDVDを借りてきて観た。確かに秀作である。
ネットで見た映画評には「社会主義→悪、抵抗者→善 そして悪い体制が崩壊してメデタシメデタシ」といった(単純な)評価が多かったが、観終わって少し異なる感想を持った。
社会主義の持つ非人間性は広く知られることとなったが、一方、不自由であってもそれを「良し」とした多くの国民がいて体制が維持されてきたことも事実である。
(ネロやカリギュラ時代のローマ帝国やヒトラーの第3帝国も同じ類である。)
つまり、大衆は一定の生活ができれば体制(全体)の善悪には目をつぶるものである。そしてそこには全体の暴力性に隠され個人の顔は見えてこない。
この映画では、周りの価値観に左右されず個人としての尊厳を持ち続ける崇高な生き方が描かれている。
主人公の大佐を演じたウルリッヒ・ミューエは旧東ドイツ出身で、自身国家から監視された経験を持つという。
淡々と演じているが、事実を知る者のみの持つ悲しみが観るものの心を打つのである。
Labels: アート
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